top of page
ARTICLES

記事

危機の中で安定を保つ

デリア・ステインベルグ・グスマン著・長谷川涼子訳

違いを認め.jpg

現代文明を全世界・多方面にわたって根底から揺るがしている今日の危機は、一見、今の時代に特有のものであり、規模も随一のように思えます。しかし、注意して見てみましょう。こうした危機は、歴史上あちこちに見出すことができます。そしてそのたび、哲学者たちが危機についての深い知見を作り上げてきたのです。

言葉をうわべだけの意味で使うことを繰り返すと、その言葉の本来持っている価値は失われてゆきます。今日、「危機」という言葉は痛ましい決裂を意味するとされており、通常、苦悩や喪失と結びつけられています。ですが、この言葉の最も正統な意味は「変化」なのです。

変化は突然起こることもあり、その場合、物質面・道徳面・歴史面・精神面など非常に異なる分野にわたって変革を余儀なくされます。危機において、生活のたった一つの側面が変化するだけというのは稀なことであり、通常、歴史の転換点においてはたくさんの変化が同時多発的に起こるのです。

この多面的な現実をきちんと受け止められなければ、安定(それ以前に安定していればの話ですが)はたやすく失われるでしょうし、構築したくとも不可能になるでしょう。

安定は、人間生活のあらゆる面、文明構造のあらゆる場面において構築・維持されねばなりません。

文明のレベルにおいて言えば、道徳や知性、精神の価値が後退しているさなかに物質的豊かさを追い求めるのは、噴火や台風に国じゅうを蹂躙されている真っただ中で宴会の準備をするのと同じです。

人間ひとりのレベルにおいて言えば、調和のとれた命、洗練された精神、神聖なものへの高次元の感受性などをないがしろにして肉体的生存の維持のためだけに闘うのは、命のない体にだけ栄養を取らせるのと同じです。

まさに危機の時にこそ、安定が欠かせないツールとなるのです。期間を問わず暗い時期を抜けるためだけでなく、歴史の上で必ず訪れる明るい時期を回復するためにも、これは必要なのです。

科学者・芸術家・哲学者であったアルバート・アインシュタインは、こんな言葉を残しています。

「誰にとっても、どんな国にとっても、危機は恵みとなりうる。あらゆる危機は進歩をもたらす。暗い夜から新しい日が生じるように、苦悩から創造が生じる。まさに危機の中でこそ、発明、発見、そして偉大な戦略が生まれる。危機を乗り越える者は、打ち負かされることなく自分をも乗り越えるのだ」

つまり、危機においては、忍耐と根気によって培われた安定が必要となるのです。

ここで、上記の「安定」と併せて必要になるいくつかのことを見てみることにしましょう。

●平静さを必要とする危機の場合

何もかもが崩壊し、足がかりを見出すのが困難な時や、それまでの歴史を覆すような大変動がすべてを押し流してしまっている時、私たちは激流の中の流木のように振り回されてはいけません。

平静さを保つことで、ささやかな居場所が生まれます。そこでは落ち着いて考えることができ、この重大局面を乗りきるための道しるべともなります。平静さは嵐の中の安全な小島を生み出します。平静さは情熱を適度に抑制し、明快な思考をもたらします。

●想像力を必要とする危機の場合

妄想ではなく、現実的な想像力のことです。妄想によって肥え太るのは誤ったイメージだけであり、一時的な満足以上の中身や目的はありません。妄想と違って、想像力とは現実逃避で満たされるものではないのです。

想像力とは探し求めることです。ちょうど哲学が知恵を求めるのと同じです。これまでも最悪の環境から社会や個人を救ってきた恒久的なアイディアは、想像力によって見いだされるのです。

●創造性を必要とする危機の場合

何かを発明する必要はありません。知性の欠如が原因で活用されなくなった物の新しい活用方法を見つける、という話です。

人間の知性が機能しなくなれば、制度も機能しなくなります。秩序が機能しなくなれば、暮らしのために設計された道具が恐ろしい殺人機械に変わってしまうのです。

ナイフが使えないからといって捨ててしまうのではなく、ナイフが正しく使い物になる機能を取り戻すことです。

真の創造性とは、純粋なひらめきであり、創造のルールを再構築するものであり、自然の法則から我々を遠ざけるかわりにそこへ近づけるものなのです。

●自発性を必要とする危機の場合

自発性は一見、平静さとは矛盾するように見えますが、これは行動と同様、内なる平和への迅速な反応なのです。

危機の中において、人は活動せずにはいられません。それどころか、惰性や麻痺、恐怖を退けて前進を続けるためには、平静さや想像力、創造性が必要となります。

しかし不幸にして、自発性は支配・嫌がらせ・無理強い・攻撃などと混同されがちです。こういった性質は、事実に基づいて述べれば、この歴史的危機に我々を導いた「積極的な人」の属性なのです。

私たちはここで一度足を止め、自発性を勇気に変えようではありませんか。どのような環境にあっても諦めず、率先して人々に奉仕し、道徳心を決して失わず、進む一歩一歩において信用を勝ち得るのです。

どのような危機においても、確かな解決を。

深遠な、本当の変化をもたらす解決を。

生きるための哲学.png
哲学カフェ.png
event calendar.png
bottom of page