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春分の意味

ナタリヤ・ペトレヴィチ著・長谷川涼子訳

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春、新しく甦ったエネルギーが満ち溢れる日々には、誰もが心浮き立つものです。自然が目覚める美しい時期、しだいに日足が伸びて万物が命の喜びに満ちる時期といえます。

一年のうちの、ある特別な日の話をしましょう。この日、太陽がちょうど天の赤道の位置を通ります。つまり、地球の自転軸が少しのずれもなく太陽と直角になり、地球上のどこでも昼と夜の長さがほぼ十二時間ずつになります。これを春分または秋分と呼びます。英語ではequinox(※訳注)と呼ばれ、ラテン語の aequus(等しい)・nox(夜)からきています。北半球で春分は3月19~21日、秋分は9月21~23日です。天文学上3月が春分となり、その後地球の自転軸が太陽を指して昼夜の長さが逆転するこの日から、春が始まります。

春分は、特別な祝祭でもあります。これは太陽の一年間の循環、自然の再生、そして霊的な復活にまつわるものです。伝統的に、春分・春は世界及び生命の再生を記念するものでした。英雄や神が地底の暗黒や死を乗り越え、生命溢れる光の中へ出てくるのは、まさにこの時なのです。

そのため、ペルシア暦の新年ノウルーズの祭はちょうど春分の日に当てられているのです。これはゾロアスター教の古い祝祭に由来します。新年にあたり、神話の時代に築かれた世界は生まれ変わります。古びて疲弊した旧世界は新しく姿を変えてその命、光、健康さ、肥沃さを回復し、宇宙的秩序の原理に従った自らのありようを取り戻すのです。

また古代ローマのユリウス・カエサル以前の時代においては、新年は3月に始まりました。春分の間、古代ローマ人はキンクワトリアという祝祭を行いました。これは古代エトルリアにおける、知恵の女神ミネルヴァをたたえる祭りです。ローマの詩人オウィディウスは、この祭りをミネルヴァの誕生日を祝うものであると述べています。また別の作家によれば、ローマの聖なる丘のひとつにあるミネルヴァ神殿は、この日に奉納されたものです。

古代のギリシャとローマには、春分にまつわる祝祭がもう一つありました。こちらはフリギア王国由来のもので、地母神キュベレーとその息子アッティスにまつわる秘儀です。この祝祭は一週間続くもので、アッティスが死から再生されたのはHilaria(喜びの日)、つまり春分の日でした。

またユダヤ教の伝統では、神は天地創造の4日目に太陽、月、星をつくりました。タルムード教典の説明によると、太陽はつくられた時に春分の位置に置かれ、28年ごとにそこへ戻ってきます。28年ごとに唱えられている祈りの言葉もあり、そこでは太陽の創造者への感謝が述べられています。

そして日本では、春分と秋分の両日に、仏教徒がお彼岸を行います。この言葉の語源は「向こう岸」であり、現世のはかなさを我々に示すとともに、極楽浄土へ至るには現世との境の川を渡る必要があると教えています。こういった形でこの行事は、憂世から悟りの世界へ至る魂の旅と関係しているのです。

この他にも、春分と太陰暦に基づいた多種多様な春の祝祭があります。例としては、ケルトのベルテーン祝祭、バビロニア新年祭、過越の祭り、イースター、タミール新年祭、ラトビアのイースターなどが挙げられます。これのみならず、春にまつわるその他多くの祝祭には、いろいろに異なった美しい儀式(特に浄化のためのもの)があります。それらの儀式は、その祝祭の聖なる時間を明確に示し、祝祭の意味するところへ私たちを導いてくれるのです。

私たちも、自然の中の生きた一部として、春の中で心を崇高な太陽へと開き、のびやかに花開こうではありませんか。

※訳注 equinox(英語): 春分・秋分の両方を指す。区別したい場合、春分はspring equinox、秋分はautumn equinox。

元のページ https://library.acropolis.org/the-spring-equinox/

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