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良いモチベーションを持つには

デリア・スタインベルグ・グスマン著・長谷川涼子訳

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今回お話しするモチベーションは、二つの側面から見ることができます。モチベーションが保たれている状態と、保たれていない状態です。どちらも日ごろよく耳にする言い回しであり、生活の中の色々な場面や情況に即して使われています。

モチベーションや、モチベーションの欠如は、誰にでも影響を与えます。哲学的理想についての教育を受けながら、それを長続きする幸せな生活のための目標へと転化できなかった人々も、その中に含まれます。

モチベーションとは何か

モチベーションとは「動機」のことです。私たちに何らかのレベルの活動をうながす要因のことです。

私たちの肉体には、自発的に動くための非常にはっきりした動機が備わっています。中でも、これを考察するにあたって最も興味深いのは、感情とマインドに関連した動機です。一般的に、感情もマインドも、満足を求め不安を避けるよう働きますが、この満足と不安は、心理的動機の中では最も大きく、最もあてにならないものなのです。

自分の好きなことがある時、手に入れたいものがある時、また豊かさや楽しみや、特に他人からの高評価が得られそうな時、「モチベーションが上がる」という言い回しが使われます。

一方、すぐに結果が得られない場合、あるいは何かの失敗でやる気がなくなってしまった場合など、行動に対する魅力的な対価がない時、「モチベーションが下がる」という言い回しが使われます。

つまり、モチベーションとその欠如は、私たちが自分の態度や意思表示、話し方、あるいは人生の方針すら決めるための要因となるのです。

モチベーションの欠如

モチベーションの欠如は、やる気のなさ、困難を前にした無力感、意思決定力の欠如、熱意の喪失、未来への絶望感として表れます。

たとえ当初は大きな期待を持っていても、非現実的な夢は時間とともにさめてゆき、他力本願な成功を待つことで意志は挫折し、モチベーションのもとは消えてゆくのです。

要因の一つとして、私たちの生きている社会はモチベーションの欠如に悩まされています。これは明らかに、表面的で間違った心理的刺激が社会の中に溢れかえっており、特定のブランドや魔法の薬や最新の流行に人々が血眼になるよう仕向けているせいです。

結果、「腹を立てた人々」が世界中に存在しています。彼らを苛立たせるのは、避けがたい呪いのような、私たちの周りの数限りない嘘です。また、彼らはチャンス、つまり人生の困難に向き合うための有意義な動機を持つことができておらず、それも失望の原因の一つなのです。

モチベーション欠如を引き起こすもの

現代では誤った価値観が幅をきかせています。すなわち、継続的な努力より安易な成功が重視されているのです。同様に、労働より娯楽が、健康的な活動よりストレスが、研究より噂が、学問より一時しのぎの学習が、それぞれ重視されています。

今日では、物事の重要度よりもスピードに重きが置かれます。私たちは今現在を生きるよう駆り立てられていますが、それは意識をちゃんと保った状態ではなく、責任や困難を避けるために無意識へ逃避した状態です。

過去はといえば失敗の連続と化し、未来は好転の兆しが見えません……

こういった在り方のせいで、人々は非難する相手を探すのを当然と思い込むようになります。それも、本当に罪のある相手でなく、一番手近なところにいる相手です。こうして私たちは、身の回りの人たち、世界の一般的な状況、貧しさ、人々の悪、その他様々な言い訳を見つけては、自ら行動を起こさなくなるという非建設的で悲観的な状態に甘んじ、それを他の人にも押し付けようとするのです。
外的モチベーションと内的モチベーション

私たちには、人生の方向性が定まるような大義が本当に必要です。

その鍵となるのは、よい大義と確かな土台です。

しかし、もし自分の動機が他人、または自分の外部から来ている場合、永遠の依存状態に陥ることになります。周囲の世界はふわふわと安定せず、自分の幸不幸や喜怒哀楽によって風向きが変わるでしょう。他の人への依存ももちろんこれに含まれ、依存先の相手が自分の動機となり、行動の原因となります。

残念ながら、こうした外的モチベーションとは一過性の不安定なものであり、人生の基盤としては役立たないのです。

ニューアクロポリスの創設者ホルヘ・A・リブラガは次のように述べています。

「夢は、死ぬのを許されたとき死ぬ。つまり、私たちが夢を膨らまそうとして外部のモチベーションへ大きく依存したときに死ぬのだ。例えば私たちを励ましてくれる人がいたとして、私たちは心強い気がするだろうが、その人がいない時はもう元気は出ないだろう。好ましい環境の中なら勇気が出るが、何かが少しでも食い違えば気力を失う。こうして夢は生かされず、熱意は表出されなくなる。そしてほとんどの場合、弟子は他人の熱意や夢の影か反射に過ぎなくなる。環境や、たまたま居合わせた誰かの好意的な賛同、そういったものの反射に過ぎなくなるのだ……」

一方、内的モチベーションは、私たちが選んで身につけた自分自身の意見や気持ちの中から生まれるものです。これは、学びや意思決定のプロセス、経験や未来予測に基づいています。



つまり、基本的欲求の充足のみならず、本能・感覚・些末な感情・流行りの考えなどより高い視座を持って初めて成り立つものです。

モチベーションの中で最高のものは、人生における理想です。これは私たちの能力をフルに引き出すものであり、私たちの全存在に深く関わって短期的・中期的・長期的な目標を示し、私たちの行動に有効で力強い意味を与えます。

心理学的モチベーションと哲学的モチベーション

心理学的モチベーションとは、長続きしないものです。なぜなら、不安定で一時的な感情(自他どちらの感情であれ)に従っているためです。

もし、自分の人生の中で感情に重きを置くなら、モチベーションの高い期間の後にモチベーションの上がらない期間がくる、ということが頻発するでしょう。そしてこの低モチベーションの期間は、それ自体のネガティブな威力のせいで、自分自身の人格に深い爪痕を残します。

その一方で、もし哲学的価値を確信していれば、素晴らしい知識を理解することができるでしょう。そうした知識がこれまで歴史を動かし、また輝かしい業績を残し続ける偉人たちを動かしてきたのです。

知恵の探究は終わりのない道であり、したがって哲学は永遠のモチベーションです。その道の中では、ゴールは常に更新されるものであり、訂正と更新、学びと経験、確信と幸福を絶え間なく得ることができます。

外なる原因を捨て、自分の内に目を向けましょう。モチベーションを動機に変え、動機を根源に変え、根源を土台に変え、土台を目標に変え、目標を発展に変えるのです。これこそが正しい哲学の道であり、人生における最高度のモチベーションなのです。

元記事URL https://library.acropolis.org/motivations/

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